村田朋泰 全作品 −「朱の路」「睡蓮の人」など8作品を一挙上映−
期間:2002年5月9日(木)〜6月8日(土)
会場:銀座 晶アート 2階
関係各位

 1999年以降、わが国では、多くの優れたアート・アニメーション作品が生みだされてきましたが、今回、東京出身の秀抜なアニメーション作家、村田朋泰の全作品を上映することを通じて、この動きの一層の広がりをお伝えできることを嬉しく思います。

 村田朋泰の「睡蓮の人」が、平成13年度(第5回)文化庁メディア芸術祭において、宮崎駿の「千と千尋の神隠し」と今敏の「千年女優」(いずれも大賞)に次いで、優秀賞を受賞したことをご存知の方も少なくないでしょう。また、東京藝術大学の卒業制作展に「朱の路」を出品し、大きな反響を呼んだことをご存知の方もおられるでしょう。

 これらの展覧会で作品をすでにご覧になった方も、まだご覧になっていない方も、この機会に、村田朋泰の代表作2点と、作家の発展過程を知るうえで興味深い作品6点を、併せて鑑賞されることをお勧めします。
 
「睡蓮の人」
 

 村田朋泰の作品は、オーソドックスな技法を採りながら、作品を構成する様々な要素において優れている希有な例である。そうした中に、作家の無二の個性が現れている点が興味深い。

 すなわち、パペット・アニメでありながら、全てのコマが、絵画的な構成を有し、油彩画の表面のような物質感を提示している。デジタルビデオでありながら、デジタルを感じさせず、むしろアナログかつペインタリーな感覚をもたらしている。また、寡黙な淡々とした時の流れが、画面の緻密さを際立たせるとともに、主人公の感情の起伏を浮き出たせている。

 そうした中、心の琴線に触れるささやかな物語が展開し、観客はほろりとさせられる。例えば「睡蓮の人」(2000年)では、ひとり暮らしの老人が家の中の整理をしながら、自分の妻の古い服をみつけて、若い頃先立たれた妻を想う。「オモヒデ」(2001年)では、ロボットが部屋の掃除をしながら昔の写真を発見し、一緒に遊んでくれた幸せそうな一家を想う。「朱の路」(2002年)では、列車の中でピアニストが自分の娘に似た花売り娘をみつけ、亡き娘を想う。

 これらの作品における主人公の姿は、実は、家族を想う、作家自身の姿でもある。別居家庭で育った作家は、仕事を終え帰宅した後、毎晩絵を描く母の姿を見て、子供心に「そんなにまでして打ち込めることは素晴らしいことだ」と思ったという。

 また、手の痕跡を残すオブジェやセットの使用によって得られるブラッシュ・ストロークのような視覚効果と、撮影を行う際の絵画的なパースペクティブが、ペインタリーな画面の形成に寄与している。その背景には、ヤン・シュヴァンクマイエルやイジー・バルタといった、チェコのパペット・アニメ作家からの影響や、幼少から絵画教室に通い続けた経験、母が洋画家である家庭環境などが指摘できよう。

 さらに、これらの作品に共通する温かいものへの憧れと、それとは裏腹の関係にある喪失感という特徴的なストーリーからは、小津安二郎の映画に見る家庭の風景や、絵本作家アーノルド・ローベルの描く、仲睦まじい世界への憧れも見てとれるだろう。

 日本のアート・シーンでは、1999年以降、多くの優れたアニメーション作品が誕生した。今回紹介する村田朋泰の作品に限らず、束芋「にっぽんの台所」、伊藤存+青木陵子「念写」、青木陵子「疾走する風景」、カワイ+オカムラ「HOLY AND CHEAP」など、枚挙に暇がないほどである。

 東欧のパペット・アニメや、日本のテレビ・アニメ、人形劇などを観て育った新世代の若者は、これらの作品において先達が切り開いた方法論を、それぞれの個性にあわせて十二分に活用している。

 また同時に、軽い感性で好きなことを幅広くテイストし、親密な仲間関係のなかで特定の分野に打ち込むという、「ちょっとパラノ(パラノイアック)、ちょっとスキゾ(スキゾフレニック)」な、この世代の価値意識も反映している。それは1990年代に現れた「盛上げ、参加型世代」や、「ひきこもり、妄想世代」とも異なる、新しい世代の意識である。

 こうした理屈を抜きにしても、筆者は、これらの作品と、その醸し出す空気感が好きでたまらない。観客の多くも気に入ってくれることだろう。ただそれは、翻ってみれば、筆者も貴方も同じ時代に生きているという、平凡な事実を示すに過ぎないのかも知れないのだが。
                               深瀬鋭一郎
   
    「朱の路」
村田朋泰

■略歴
1974年 東京都生まれ
2000年 東京藝術大学(美術学部デザイン科)卒業
2002年 東京藝術大学大学院(伝達造形第一研究室)修了

■映像作品
1. TUG_TUG ( 4分30秒) 1998年
2. せみしぐれ ( 9分) 1998年
3. An Introduction of Human Zoology ( 7分30秒) 1998年
4. BURP ( 2分30秒) 1998年
5. TOKYO ( 5分30秒) 1999年
6. 睡蓮の人 ( 16分) 2000年
7. オモヒデ ( 4分30秒) 2001年
8. 朱の路 ( 14分) 2002年

■個展
2002年 「村田朋泰 全作品」 晶アート
      「村田朋泰 アニメーション全作品展」 現代美術館・名古屋
      「村田朋泰展 立体アニメの現在」 CAI現代芸術研究所

■グループ展
2002年 「カフェ・イン・水戸」 水戸芸術館 現代美術ギャラリー/現代美術センター
      「GOOD LUCK! 現代美術の一様相」 パルテノン多摩
     
■受賞
2000年 東京芸術大学美術学部デザイン科卒業制作 デザイン賞 「睡蓮の人」
      BBCCネットアート&映像フェスタ2000 映像部門入選 「睡蓮の人」
2001年 第2回ラピュタアニメーションフェスティバル2001 観客賞&ヒューマン賞 「睡蓮の人」
2002年 第5回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門 優秀賞 「睡蓮の人」
      東京芸術大学大学院美術学部デザイン科修了制作 大学買い上げ賞 主席 「朱の路」
      森アートミュージアム企画 Young video Artists initiative 佳作 「朱の路」
      PFFアワード2002 審査員特別賞 「睡蓮の人」
      第9回広島国際アニメーションフェスティバル 優秀賞 「朱の路」