タムラサトル "ALL VIDEO WORKS"

「プラスチックモデルは粉々にくだける」(2000年)
「最終的に、洗濯機が燃える」(2000年)
「その夜、彼は、缶を打つ」(2002年)
「フライドチキン・コミックス」(2002年)

日時:2002年11月2日(土)〜23日(土)
場所:銀座 晶アート
協賛:キリンビール株式会社
「プラスチックモデルは粉々にくだける」(2000年)
 
意味性の破壊

 タムラサトルの作品は笑える。笑えるが、危険でもある。親しみ易いモチーフの裏に、キネティック・アートとしての物理的危険性や、ビデオに映し出されるパフォーマンスの暴力性、モチーフを無為に空回りさせ意味性を消し去ろうとする無意味主義─いわば概念的テロリズム─が潜んでいる。その笑いは、作品が面白くて笑う、ユニークなので笑うということに止まらず、考えのやり場がないので笑うしかないといった、観る者の思考活動を無にするような性格を持つ。

 タムラの立体作品は、頭や胴体が切られていたり、穴があけられていたりする精巧な熊や鰐の立像が、簡易かつローテクな機械仕掛けで動くものである。モチーフに対して等身大以上に造られた立像が旋回し、あるいはレール上を動いていく様は、そのスケールの大きさで観る者を圧倒する。また、動きの単純とローテクさで笑わせる。鑑賞者は作品の前を離れた後、「なぜあのような動きをするのか」と自問自答し、作品の意味を探ろうとする。

 モータ等の機械を用いていることに着目して、作品が「機械化の進んだ現代社会に対する批判を意味している」と捉えることも可能である。ダダイズムや反芸術の流れに擬えて、「美術史や、芸術のパラダイムにおける意味性への反逆を意図している」と批評することも可能である。

 もっとも、タムラにはそのようなアンチテーゼを提起する意図はない。タムラの作品においては、モータ等のメカはあくまで作品を作品として成立させるための一機能に過ぎない。タムラは常に自分の作品について、作品はあくまで「作品」であり、特定の意味を有するものではないと主張している。一見してそれとわかる具体的なモチーフを取り扱いながら、観る者に思考停止を求めようとする。

 こうした作品は、意味性の破壊という、いわば倒立したコンセプチュアリズムもまた成立し得るという事実─コンセプト─を、将来へ向けて提示している点で重要と考えられる。それは「イズムの消去」を標榜しつつも、過剰と言えるまでの概念性に満たされた今日の同時代美術に対峙する、ひとつのアンチテーゼとして存在していることに他ならない。そのようなコンセプトの下で製作された作品を鑑賞するとき、鑑賞者は「美術作品とは作者の具体的なメッセージや情動を具現化したもの」という、従来の見方を修正せざるを得なくなる。

 上記の特質は、タムラのパフォーマンス・ビデオ作品にも顕著にみられる。鑑賞し思考する頭脳回路を無効にすることを強制しつつ存在するビデオ作品は、鑑賞者に対して相当に過酷な受容を迫るものとならざるを得ないだろう。無意味さを追求した作品を制作するためには、作家は制作意図を探ろうとする鑑賞者の深読みを拒み、思考停止の状態を求めなければならないからである。

 例えば、タムラとその友人たちが、洗濯機をピッチングマシンで破壊し、最終的には燃やしてしまう一部始終を描いた映像作品「最終的に、洗濯機が燃える」(2000)では、洗濯機を破壊するパフォーマンスをギャラリー内で行う代わりに、ビデオ作品として目前に提示する。

 すると、むき出しの過激さと危険性が映像によって緩和される分、鑑賞者にとっては、「なぜこのようなことを?」という謎がたち現れる。その謎を解き明かそうとすることにより、考えれば考えるほど意味を探れなくなる困惑状態が生じる。その結果、ビデオ作品内で起こっている破壊活動がどんなに判り易いものであっても、考えれば考えるほど作品の無意味さが際立ってくる。

 我々はこの矛盾の前で、ひたすら自問自答するしかない。そしてこの状態こそ、タムラが目指すものであるならば、おそらく彼の術中にまんまと引っかかったことになるのだろう。そして、そうなってしまった以上、筆者を含めてタムラの作品を見るものは、ただ笑いながら彼の作品と向かい合うことになるのである。

                          深瀬鋭一郎 / 尾野田純衣
「最終的に、洗濯機が燃える」 (2000年)
「その夜、彼は、缶を打つ」(2002年)
 
■タムラサトル
http://www.lares.dti.ne.jp/~mm25/tamura/index.html
1972年 栃木県生まれ
1995年 筑波大学 芸術専門学群 総合造形卒業

■個展
1997年 コマバクンストラウム/東京大学教養学部構内 (駒場東大前)
1998年 現代美術製作所(東京)
1999年 オレゴンムーンギャラリー(東京)
      SONYビル(銀座)
2000年 ギャラリーアートワークス(東京)
      space BIG ART
2001年 Gallery Art SOKO(東京)
2002年 GALLERY IN THE BLUE(宇都宮)
      晶アート(東京)
■グループ展 (1999年以降の主なものを抜粋)
1999年 「Art in Living-room」現代美術製作所 (東京)
      「アート公募 2000 審査員賞 / 新木場SOKOギャラリー (東京)
      「KIRIN CONTEMPORARY AWARD 1999」奨励賞/キリンビール新川本社ビル (東京)
      「KIRIN CONTEMPORARY AWARD 1999」奨励賞/キリンプラザ大阪 (大阪)
      BIENNALE 1 ATAMI 1999 (熱海)
2000年 「studio BIG ART ムービーフェスタvol.1」 space BIG ART (横浜)
      「三田村峻右と総合造形」 茨城県立つくば美術館 (つくば)
      「Screening Japan」 Hallo! (デンマーク)
      「Screening Japan」 rum46 (デンマーク)
      「Daejeon Media Art 2000」 大田市立美術館 (韓国)
2001年 「千年の扉」 栃木県立美術館 (宇都宮)
      「studio BIG ART ムービーフェスタvol.2」 space BIG ART (横浜)、別府大学 (大分) 、北海道
      東海大学 (旭川) 、 稚内北星学園大学 (稚内) 、東北芸術工科大学 (山形)、TSTV San・S
      街頭大型テレビジョン (新宿)
      「Tokyo Rabbit Paradise Project (TRaP) [Tokyo/Life] 展」 Selfriges, London (ロンドン)
      「BEST 12」 現代美術製作所 (東京)
      「横浜イースタン・ラリアート」 (横浜)
      「モノの芸術・メデイアのアート」 常葉美術館 (静岡)
      「共存 Kyozon」 カムループス市立美術館 (カナダ)
2002年 「LUCKY SEVEN」 www.so-net/gallery(東京)
      「Art Scholarship 2001 第1回現代美術賞 塩田純一部門展」入選 exhibit LIVE[laiv](東京)
      「Art Scholarship 2001 第1回現代美術賞 椹木野衣部門展」入選 exhibit LIVE[laiv](東京)
      「ニュー・メディア ニュー・フェイス02」 NTT Inter Communication Center [ICC](東京)
      「Philip Morris Art Award 2002 THE FIRST MOVE 最終審査展」 P.S.1賞 東京国際フォーラム
2003年 「Philip Morris K.K. Art Award 2002  THE FIRST STEP」 P.S.1(New York)